大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和35年(う)517号 判決

被告人 斎藤力松

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人の控訴趣意一、について。

論旨は、(1)原判決は罪となるべき事実を単に第一、第二と判示し、いずれが森林法違反になるのか、いずれが窃盗になるのか判文上では必ずしも明瞭でないにも拘らず、法律の適用においても、判示事実中「森林法違反の点」及び「窃盗の点」としてそれぞれ該当法条を掲げているだけであるので、いずれを森林法違反としたのか、いずれを窃盗としたのか明確を欠き、結局法令適用を誤つた違法に当る。(2)原判示第二事実は窃盗現場が山林内の一部であり、賍品は製品であつても未だ杉丸太、素材の状況則ち加工は玉切り程度であるから、森林産物の窃盗と目すべきもので、窃盗罪に問擬すべきでなく、森林法違反罪として処断すべきである、というのである。

しかし、原判決は、同判示第一において「被告人は、昭和三十四年九月八日午前八時三十分頃熊本県球磨郡多良木町大字槻木湾洞国有林第十五林班の小班内において、多良木営林署長保管にかゝる立木四本を盗伐し」た旨認定しているので、森林においてその産物を窃取したとする森林窃盗の事実を明瞭に判示しており、一方同第二においては「同年同月十六日午前十一時三十分頃前記国有林第十五林班の小班内林道脇において前記署長保管にかゝる杉丸太の製品十本を窃取し、」た旨判示し、その窃取場所は「国有林第十五林班の小班内林道脇」として森林内ではあるが、賍品は単に「前記署長保管にかゝる杉丸太の製品十本」としていて直接に同森林の産物とはしていないし、同判示第一については「盗伐し」としているのに対し「窃取し」と判示しているところから見ても、同判示第二はこれを刑法所定の窃盗罪と認定したものであることが明らかである。従つて原判決が法律の適用において「森林法違反の点」としたのは同判示第一事実を指称し「窃盗の点」としたのは同第二の事実を指すものであることを明瞭に看取できるので、原判決には所論(1)のような法令適用の誤は存しない。

次に原判示第二の窃盗場所が、森林内であることは前示のとおり原判決もこれを認めるところである。しかし山口昇の被害届及び日高正の上申書によると、その賍品は、多良木営林署が約三ヶ月前に国有林内における林道延長工事の支障木として伐採した約二百五十石の内の一部で、杉皮付ではあるが造材の上極印を打記し、経級寸法を書込み、林道脇の原判示場所に集材集積してあつたものであつて、右場所は久保義武の司法巡査に対する供述調書並びに被告人の司法巡査及び検察官に対する各供述調書によると、これにトラツクを寄せ直接積込できる場所であることが認められる。森林法第百九十七条にいわゆる「森林において」とは、当該森林産物の生立していたその森林内を指称するものであつて、本件における如く林道延長工事の支障木を伐採し、これを造材の上直接トラツクに積載できるような搬出に便利な一定の箇所に集材して集積してあるような場合には、それがたとえ森林内ではあつても森林法の前記法条にいわゆる「森林において」に当らないものと解するのが相当である。従つて原審が本件を森林法違反罪に問擬しなかつたのは相当であり、原判決には所論(2)のような法令適用の誤も存しない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 青木亮忠 木下春雄 内田八朔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例